小腸摘出潅流モデルの作製については、これまでに文献的報告が皆無であり、実験モデルとして妥当なモデルの作製が可能か否かについてさえ検討されたことがない、新規の研究課題である。 臓器摘出潅流モデルは、心臓、肝臓、腎臓など種々の臓器で確立されており、それを用いた研究の成果が様々な病態での臓器障害の解明や臓器保存法の開発の一助となっている。しかし、小腸は、虚血・再潅流障害や臓器保存の研究において、他臓器に比べて大きく遅れており、その原因の一つとして、作製した摘出潅流モデルの妥当性を検討するパラメーター(肝臓では胆汁分泌量、心臓では拍出量や拍動数、腎臓では尿分泌量)が見いだされていなかったことが挙げられる。 私どもの研究室では、小腸虚血・再潅流障害に着目し、その病態、診断法および治療につき種々の研究を行ってきた。その成果の1つとして、核磁気共鳴スペクトル法(^<31>P-Magnetic Resonance Spectroscopy : ^<31>P-MRS法)により非侵襲的・連続的に測定された小腸組織のATP変動が小腸虚血・再潅流障害時の小腸のviabilityを反映することを証明した。 本研究課題では、小腸摘出潅流モデルを作製し、そのモデルの妥当性を^<31>P-MRS法により評価した。乳酸加リンゲル液にデキストランを加えた潅流液にて、動脈側は大動脈本幹からcanulationし、静脈側は門脈からcanulationし、上腸間膜動脈・上腸間膜静脈を血管柄として小腸を潅流しつつ摘出した。この小腸摘出潅流モデルでは、^<31>P-MRS法によるATP、Pi、pH測定に際して、(1)初回測定時のATP量が、in vivoモデルに比して既に有意に低値であり、Pi、pHにも差が認められる、(2)ATP量の減少が早期より始まり、経時的に減少する、などの問題が認められた。組織学的検索では、粘膜下層の浮腫が、その原因と考えられた。 以上より、潅流液の組成、流量などに関して、更なる検討を継続しているところである。
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