研究概要 |
心電図QRSの高周波数成分の低下と心不全の電位変化はどのような機序で関連するか、実験的検討を行った。心不全においては、活動電位持続時間が延長することが報告されており、その機序として脱分極第2相のカリウムチャンネル異常が指摘.されている(Circ Res 78:262,1996)。K電流異常の主な原因は第2相の外向き一過性K電流(I to)の心不全によるdownregulattionである。また、I toの拮抗剤である4-aminoprydine(4-AP)は心不全と同様に活動電位延長を示す。そこで、ラット・ランゲンドルフ摘出心モデルに1mmolの4-APを作用させ、その前後でQRS周波数成分の変化を検討した。 【方法】 電位はラット摘出心心外膜の針電極(5ヵ所)より抽出し、QRS波形をvector magnitude法により3方向のvectorに束ねた。これに対し、80-300Hzの周波数成分をfilterにより抽出したQRS電位を高周波数電位とし、non-filterのQRS電位を低周波数電位とした(低周波数電位の周波数帯は5-20Hzにあるため)。ラット冠潅流液の側管より4一APを1mmolの濃度で投与した。 【結果】 4-AP前後の高周波数電位は490±91μVから218±39μVまで低下した(p<0.05,n=4)が、低周波数電位は1280±353μVから1814±90μVまで上昇する傾向を示した(p<0.05,n=4)。同時にラット左室心内膜に単相性活動電位(monophasic action potential:MAP)電極を接触させ、MAP波形を求めその活動電位持続時間の指標である90%電位の活動電位持続時間(APD90)を求め、4-AP使用時には延長していることを確かめた。 【考察】今まで心不全における電位変化は明かではなかったが、心筋細胞活動電位のレベルでは活動電位持続時間の延長が示されるようになった。その機序として心筋細胞が心不全に対しリモデリングをした結果、Kチャンネル(Ito)のdownregulaionをおこしたものと考えられている。実験的に活動電位持続時間を延長させると、加算平均心電図で求められるQRS周波数成分に対しては、低周波数成分の増加と高周波数成分の低下ととして対応しており、今までの我々の臨床的・実験的知見と矛盾するものではないと考えられる。活動電位(第2相)の延長は脱分極機序にCa電流が荷担することになり、伝導遅延を引き起こすとともに、増加したtransmembrane Ca2+ionによりCa induced Ca release(CICR)が賦活され、細胞内Ca濃度が上昇しすることになる。この点でも高周波数電位の低下と細胞内Ca濃度上昇との有意な関連を示した前年度の実験と矛盾しないと考えられる。
|