研究概要 |
嚥下は,咀嚼の最終段階に発現する各種筋活動と反射が統合された複雑かつ巧妙な運動であり,その評価は非常に難しいのが現状である。実際,嚥下運動の開始時点についても喉頭挙上時とするか舌の挙上時とするかでいまだ意見が一致しておらず,申請者らが目指した嚥下運動の客観的定量評価システムの構築には,乗り越えなければならない多くの問題が存在している。このため申請者らは,咀嚼から嚥下に至る一連の運動を嚥下検査のゴールデンスタンダードとも言われるVideofluorography(VF)を用いて評価することから研究を開始した。そこで,X線被爆の問題も考慮して,高齢者の有歯顎者ならびに上下顎無歯者の義歯装着・非装着時を対象として,水(バリウム10%含有)嚥下をVFにより経時的に記録することで,一連の動作時の舌運動等を評価し,それに関わる各種筋活動について推察することで,将来的な非侵襲的評価法の確立へのステップとした。 その結果,無歯顎者の総義歯装着時と非装着時の嚥下を比較することで,食塊の奥舌への送り込みと喉頭挙上との間のタイミングがずれることにより喉頭流入が起こる可能性が示され,この時の舌の前後的ならびに上下的な位置がそのことに関与しているのではないかということが推察された。すなわち,従来言われているよりも高率で喉頭流入が生じた無歯顎時の嚥下では,食塊を奥舌に送り込む際,舌が十分に挙上されておらずやや前方位にあることが示され,このことは舌を上下顎堤に挟んだ状態で陰圧を形成しているものと考えられた。そして,適合のよい総義歯装着時には,舌の挙上が十分に起こり喉頭流入も起こらないことが確認できた。現在,この時の舌骨上筋群の筋活動について検討を始めており,また,再現性が難しい超音波画像における診査部位の決定についても評価している最中であり,今後この研究を進めることで,目指すべき嚥下運動の客観的定量評価も確立できうるものと確信している。
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