研究概要 |
顎顔面骨格パターンの成立や矯正治療後の予後などを評価するには,咀嚼筋の機能的解析が重要である.特に筋電図によって得られる筋機能は,筋線維組成の相違を反映し,遺伝的影響を強く受けているものと考えられるが,これまではバイオプシーなどの観血的な処置を行なわない限り明らかにすることはできなかった.そこで本研究の目的は,咀嚼筋の筋線維組成を非観血的に測定するシステムを考案し,顎顔面骨格パターンとの関連性について明らかとすることである. 本研究で開発したシステムは,塩化ビニールシート上にAg-AgCl線9本を5mm間隔で平行に配列したアレイ電極を用いて咬筋の活動電位を導出し,各チャンネル間の活動電位ピーク遅れ時間で電極間距離を除して活動電位伝導速度の算出を行うものである. 咬筋の活動電位伝導速度と顎顔面骨格パターンとの間に関連性が得られるかどうかについて,被験者7名を用いて検討したところ,上顔面高と下顔面高との比率と100%MVC(maximum voluntary contraction)における活動電位伝導速度との間に1%レベルでの有意な負の相関性が認められ,mandibular pl.to SN,gonial angleとの間にも負の相関が認められた.このことから,咬筋の活動電位伝導速度,ひいては筋線維組成と垂直的顎顔面骨格パターンとの間に強い関連のあることが示唆された.また,筋の収縮強度に違いによる活動電位伝導速度の差異を検討したところ,long faceとshort faceでは異なる傾向を示し,このことから運動単位の動員様式に違いがある可能性も考えられた. 今後は測定精度を高めるため,資料の収集の継続と顎顔面骨格パターンや他の機能検査の分析結果との関連性について検討し,さらにバイオプシーを行い咬筋の筋線維組成と活動電位伝導速度との間の相関性についての確認が必要である.
|