研究概要 |
分子認識機能を有する人工チャンネル化合物の基本設計とその生体膜類似機能の評価を目的とした研究を,一連のシクロデキストリン誘導体を埋め込んだ平面脂質二分子膜において展開した結果,以下のような基礎知見が得られた。 (1) 二分子会合により膜貫通チャンネル構造を形成しうる一連の半チャンネル型人工化合物として,全ての一級OHを選択的に長鎖アルキルアミドに置換したα-及びβ-シクロデキストリン誘導体を合成し,その構造を各種有機化学的手法により確認した。 (2) 各シクロデキストリン誘導体を平面脂質二分子膜に埋め込み,両側の水溶液に印加電圧(50〜200mV)を加えたところ,単一チャンネル電流が開閉挙動を伴う矩形波として観測された。この開閉挙動は,脂質二分子膜の両層中の半チャンネル分子の縦会合による膜貫通チャンネル構造の形成・解離を反映するものである。 (3) 脂質と適合した長さの側鎖(C_<18>)を持つα-及びβ-シクロデキストリン誘導体は,短い側鎖(C_<12>)を持つものに比べてチャンネル電流の発現確率が遥かに大きく,膜貫通チャンネル構造の形成にとってチャンネル側鎖と脂質との適合性が重要であることが示された。 (4) これらのチャンネル電流は,限られた時間領域内では一定の伝導度と安定した長い開口時間を示した。特にチャンネル開口時間は数秒に達することが多く,これまでに報告された人工チャンネルに比べて遥かに長寿命であった。また,何れのチャンネル化合物においても伝導度は多段階であり,安定立体配座が多様であることが示唆された。 (5) 濃度勾配下での測定により,チャンネル電流はアニオンではなくカチオンに選択的であることが明らかとなった。
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