研究概要 |
テフロン板に100〜150μmの穴をあけ,ホスファチジルコリンをペインティングして脂質平面膜を作った。そして,この膜の一方から海綿由来ポリペプチド・ポリテオナミドBを1pMという低濃度作用させたところ,極微量のイオンを通すチャネル電流が観察された。シングルチャネルを通る電流の大きさは,イオン種により異なり,H^+>>Cs^+>Rb>K>Naの順でEisenmannI型のカチオン選択性を示した。Cl^-など陰イオンは通過しなかったことより,ポリテオナミドBはそれ自身で陽イオンのみを通すチャネルを形成することが明らかになった。また,このチャネルは,脱分極側で開口し易く,過分極で閉じる傾向の膜電位依存性をもったゲーティングを示した。しかし,シングルチャネル電流は内向き整流性を示し,チャネル構造(イオン透過路)の非対称性が示唆された。シングルチャネルのコンダクタンスは1MCsCl中で30pSであった。濃度反応曲線の解析から,ポリテオナミドBは1分子で1チャネルをつくると思われた。ポリテオナミドBは約40ヶのD-およびL-アミノ酸が交互に結合した構造をもっていることより,この特異なアミノ酸配列がβヘリックスのチャネル構造を形成していると推測された。分子量約5,000の小分子が単一でゲーティングを示すイオンチャネルを形成することが明らかになったことより,チャネルの基本的性質を解明する上でこの海洋毒は貴重な材料となると思われた。一方,他の海洋毒(イワスナギンチャク毒・パリトキシンやサザナミハギの毒・マイトトキシン)で同様の検討をしたところ,単独でチャネルを形成する結果は得られなかった。
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