研究概要 |
Helicobacter pylori(Hp)感染を予防する試みの手掛かりとしてHpの生埋機能をより明確にすることが急務であった。感染成立には(1)運動性、(2)走化性、(3)定着に関与しているとされる、べん毛鞘成分の解析が重要と思われた。今回、べん毛の構成成分であるFlaA,FlaBの局在を明確にすには至らなかったが、様々な環境変化に対するHpのべん毛発現の変化を動画記録することに成功した。また、べん毛の鞘画分に特異的に存在する数種のタンパク質をSDS-PAGE分析であきらかにした。 (1) 環境変化とべん毛発現について ・培地中の血清濃度(3%,5%,10%)において各発育程度と泳ぎを観察したところ、いづれの濃度においてもOD_<660>、0.25-0.30付近でもっとも盛んに泳ぐことが明らかになった。つまり、同一培地中で存在しうる菌数(栄養素量・老廃物)とべん毛発現になんらかの関係があることが示唆された。また、Hpを培地中の血清濃度3%から5%、3%から10%と移行させても変化はなかった。 ・pH7.0からpH3.0の培地に移行させた場合、形態は螺旋が緩やかとなり、丸みをおびてくるが、活発に泳ぎ始めた。べん毛回転に酸性(H+)がエネルギーを与えている可能性が示唆された. ・CO_2濃度5%から10%に移行させた場合べん毛の回転が盛んになった。このことは試験管内の走化性の実験結果において、1mM重炭酸イオンがHpに対して正の走化性を示したこと(Infec.Immun.1997)を裏付ける結果となった。 (2)鞘特有タンパク質について ・べん毛精製画分およびその鞘精製画分において、SDS-PAGEで分析を行ったところ、鞘特有の70kDa、42kDa、27kDaの3種のタンパク質が確認された。HpaAもこのなかに含まれると考えられる。現在これらのタンパク質のN末端アミノ酸配列を決定している. 今回の結果は直接運動性・定着性抑制因子解明には至らなかったが、これにつながる多くの基礎的データが集積された。今後これらを基に本格的に抑制因子を探究する必要がある。
|