研究概要 |
平成8年度は,有明海産アカニシから採取した貝紫色素の染色性を検討し,以下の成果を得た。 1.還元染色における貝紫濃度は30〜50%(対繊維濃度)で中色〜濃色が得られた。2.水酸化ナトリウム濃度は10〜15g/l,ハイドロ濃度は20〜30g/lが適量であった。3.建化と染色の温度は60℃が適温であった。4.染色時間は10〜20分が適当であった。5.染浴は3回まで利用できたが,3回目の色素残存量は極めてわずかであった。6.毎回新たな染浴で反復染色を行うと濃色が得られたが,3回目でほぼ平衡に達した。7.生貝を用いた直接染色では日光によって発色が進行したが,還元染色で日光を受けるとムラ染めが生じた。これは,紫外線によって貝紫の臭素結合が切断されることによる。8.直接染色では赤みの紫に,還元染色では青みの紫に発色したが,ソ-ピングや仕上げによって赤みが増した。これは,淡色ほど,また,アセテートとビニロンで明瞭に認められた。9.直接染色ではナイロン,毛,絹が良好な染色性を示し,還元染色でのポリエステルとアクリルに対する染色性は低かった。10.吉野ヶ里遺跡出土の貝紫データと比較すると,本研究の直接染色の捺染が近似した結果を示した。 平成9年度は,有明海産アカニシから採取した貝紫の染色性の検討と,長崎県および沖縄県産のアクキガイ科の種々の貝類の色素成分を分析し,以下の成果を得た。 1.貝紫色素の抽出溶媒にはエーテルのほか貝の分泌液や海水も良好であった。2.還元染色で染料溶解剤を用いると均染性は向上したが,染着性は低下した。3.発色は空気酸化よりも水中酸化が効果的であった。4.貝15種類について高速液体クロマトグラフイ-で色素成分の分析を行った結果,それぞれ固有の比率で種々の色素を含有していた。5.色素は貝紫であるジブロムインジゴのほか、モノブロムインジゴ,インジゴおよびインジルビンが検出されたが,およそ7割の貝がジブロモインジゴを主成分としていた。6.同種の貝でも棲息場所で色素成分や比率が異なっていた。
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