研究概要 |
a.日本語・韓国語の鼻子音の音響的性質を比較する一方法として、子音の破裂後のF2軌跡(Locus Equation)を取り上げた。本年度は日本語話者14名の鼻子音/m//n/と有声破裂音/b//d/について分析、子音破裂直後のF2(F2onset)と母音定常部のF2(F2vowel)とのあいだの関係を回帰分析によってとらえることを試みた。その結果以下のようなことが分かった。(1)F2onsetとF2vowelのあいだには高い相関が見られる(R2:.872〜.936)。(2)両唇音/m//b/と歯茎音/n//d/は回帰係数(傾き)によって区別される(/m//b/:.876,.844-/n//d/:.672,.654)。しかし(3)F2の高い母音の前では、F2軌跡の情報のみでは適切に区別できない(判別分析的中率は/i/:59.5〜52.3%に落ちる)、という限界がある。また、(4)日本語の歯茎音の回帰係数はこれまでに研究されている他の言語のもの(.25〜.50)にくらべて大きい。 b.韓国語にみられる鼻子音の非鼻音化(denasalization)の生起に関わる要因について考察した。韓国語話者の鼻子音(112語×4回発音×4名)について音響分析を行い、非鼻音化のパターンを調べたところ、以下のようなことが分かった。設定したすべての要因について、非鼻音化に対して効果があるという結果が得られた[(1)子音(n/m:p<.05)(2)母音(8種類:p<.0001)(3)後続の音韻構造(開音節か閉音節か、鼻音化後続するか等:p<.0001)]。今後は、それらの要因が非鼻音化を促す、あるいは抑制する音声学的根拠について分析する。また、諸要因が音韻論において持つ意味についても検討する。また、韓国語話者の日本語項目(30語×3回発音)にも似た傾向が見られたので、さらに分析を進める予定。
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