研究概要 |
酵素トランジスタは,エフェクターによりその活性が制御される酵素の機能をモデルにした素子である.電気化学的手法に基づく酵素トランジスタは,エフェクター分子を検出する「ディテクタ」部とその結果に応じてある特定の酵素の活性を制御する「モジュレータ」部により構成される. 1.モジュレータ電極を電気化学的に実現した.具体的な酵素反応系としては,グルコースデヒドロゲナーゼ(酵素)とNAD(補酵素),ヒドロキノン(電子の授受を媒介するメディエータ)の系を用い,これを白金電極反応とカップルさせることにより,酵素活性の電気的制御系を実現した.本システムは,分子情報担体としてグルコース(基質)を想定した場合のモジュレータ電極として機能することが実験的に確認された.すなわち,白金電極に与える電位によって電子伝達効率が変調され,等価的にグルコースデヒドロゲナーゼ酵素反応全体の速度が変動することが確認された.ディテクタ電極として,グルコースオキシターゼ酵素電極を用い,溶液中のグルコース濃度をモニターしたところ,白金電極電位によるグルコース濃度の変調が観測された.これにより,原理的には酵素トランジスタの機能が実現可能であることが判明した. 2.前年度までに,均一系(溶液中の濃度分布に偏りのない系)で動作する酵素トランジスタ回路の解析および設計手法が確立されたが,この結果をもとに拡散過程を含む不均一な反応拡散場における酵素トランジスタのシミュレーション実験を行った.その結果,基質濃度の時空間パターンの形成・発展などの興味深い現象が発見され,これによる新しい信号処理の可能性が見いだされた.今後,酵素トランジスタによる反応拡散コンピューティングに関する新しい研究の展開が期待できる見通しを得た.
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