研究概要 |
本研究では、線虫C.elegansの感覚受容情報処理によるdauer幼虫(耐性型幼虫)形成制御について、合成表現型(二重変異にして初めて現れる表現型)と神経回路との関係を解析した。既知の神経系変異で合成dauer構成性表現型を示す組合せは、flr遺伝子群の変異以外は、dauer阻害/促進信号が3つの並列の部分から成ると考えると説明できた。最近の他研究室の研究結果を考え合わせると、この3つの信号のうち2つはそれぞれADF,ASI感覚神経の感覚入力による信号、もう1つはこれらの神経に感覚入力がないときに出ているdauer阻害信号と解釈できる。しかし、合成dauer構成性変異の中にはdauer欠損性変異daf-3,daf-5によって抑圧されるものとされないものがあり、後者はADF,ASI以外の経路(ASJ等)にも関係するか、daf-3,daf-5より下流でdauer阻害信号をブロックすると考えられた。セロトニン受容体のアンタゴニストであるケタンセリンの存在下では野性型はdauer構成性にならないが、unc-3変異体がdauer構成性表現型を示すことがわかった。これは、ADF神経がセロトニン作動性であることと一致する。 unc-31変異との組み合せで合成dauer構成性表現型を示す44個の新しい変異のマッピングを行ったところ、8個が既知の4遺伝子の変異であり、残りが少なくとも18個の未知の遺伝子にあることがわかった。環境の化学信号が感覚器官amphidの感覚神経に到達できないような構造異常を色素浸透異常で調べたところ4個しかなく、残りの38個の変異では化学信号がamphid感覚神経に到達できるが、その後の受容/信号伝達に関わる機能が異常になっているらしい。44個の変異の中には走化性や高浸透圧忌避が異常なものがあり、合成dauer構成性表現型が感覚受容の変異を容易に分離する方法として有効なことがわかった。
|