研究概要 |
PRL-3は、癌の転移においてその発現が亢進することが報告されているが口腔癌におけるPRL3の役割については不明な点が多い。これまでにヒト手術材料の検討から正常組織と比較して上皮異形成および口腔扁平上皮癌ではPRL-3の発現上昇を認めたことからPRL-3は癌化に関与することを示した。また高分化型口腔扁平上皮癌症例および組織学的浸潤度を示すYK分類にて比較的浸潤度の低い1,2,3型の症例においてPRL-3の発現上昇を認め,PRL-3の発現と分化マーカーであるCK17の発現の間に正の相関関係を認めた。一方で,PRL-3の発現とStage分類や頸部リンパ節転移との間には関連は認められず,多くの他の癌種でみられる浸潤・転移に関与するPRL-3の機能と異なり,口腔扁平上皮癌においては癌の分化に関与する特徴的な役割を果たすことを明らかにしてきた。 本年度は4NQOラット口腔癌発癌モデルを用いて口腔癌の発癌過程ならびに癌の進行段階におけるPRL-3の発現ならびに機能的役割を検討した。4NQO誘発ラット舌癌モデルにおいては,12週目には上皮異形成を示す所見がみられ,20週目には高度上皮異形成および一部に角化傾向の強い腫瘍細胞の増殖がみられた。免疫組織化学的染色では,上皮異形成では基底細胞層から棘細胞層にかけての細胞質にPRL-3の発現を認めた。扁平上皮癌組織では細胞質および核に発現を認めた。4NQO誘導ラット舌癌モデルでも上皮異形成ならびに扁平上皮癌組織においてPRL-3の発現上昇を認め,PRL-3は癌化に関与することが示唆された。また,PRL-3はp53などアポトーシスとの関連について検討を行ったが,これらについての相関は認めなかった。以上から,PRL-3は口腔癌においては癌の浸潤・転移よりむしろ癌化および癌の分化に関与すると考えられた。
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