2008年度は、多重配置の自由性の幾何学についての研究を進展させた。まず、寺尾宏明氏及び吉永正彦氏との共同研究として、すべての重複度が自由重複度となるような超平面配置を、幾何学的に完全に特徴付けることに成功した(論文"Totally free arrangements of hyperplanes)。この論文は、Proceedings of the American Mathematical Societyに受理されている。この論文は、重複度とその自由性の情報が、元の超平面配置の幾何学的状況をかなり強いレベルまで決定してしまうということを明らかにしており、重複度、多重配置とその自由性を調べることの幾何学的重要性を改めて喚起させる、エポックメイキングな研究成果といえる。 続いて寺尾宏明氏との共同研究で、齋藤恭司氏により導入されたホッジ分解の概念を、対数的ベクトル場から対数的微分加群へと拡張させることに成功した。われわれの視点から見ると、齋藤氏のホッジ分解はいわば正の方向にインデックスづけられたものととらえられ、我々はそれを負の方向へ拡張した、ということが。できる(論文"A primitive derivation and logarithmic differential forms of Coxeter arrangements'にて)。本論文はMathematische Zeitschriftに受理されている。本論文は齋藤氏の原始微分のさらなる発展の可能性を示唆しつつ、ホッジ分解と深いつながりのある数理物理学のフロベニウス多様体構造への応用、拡張も視野に入れた、意欲的な研究である。
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