六方晶金属の室温クリープ機構のモデル化を行うため、粒径依存性及び粒界近傍の変形様相を、それぞれクリープ試験、電子航法散乱回折(EBSD)法、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて調査した。クリープ試験の結果は、通常高温(>0.4T_m:T_mは融点)の転位クリープでは観察されない粒径指数が、<0.3T_mにおいで観察され、その指数は、p=1を得た。この指数は、粒界が転位運動を阻害することを意味している。さらに、AFM、EBSD法により、転位が粒界に堆積していること、粒界すべりが粒界構造に依存することを明らかにした。粒界における転位の堆積は、粒界が転位運動の障害物であることを意味し、粒径指数の観察とも整合する。つまり、転位は粒内を運動した後、粒界で運動に対し抵抗を受けることが分かる。粒界構造依存性では、粒界構造が安定な規則粒界において粒界すべりは小さく、不規則(ランダム)粒界では、大きくなる傾向が得られた。これは、規則粒界がランダム粒界より構造が安定的であり、粒内からの転位の導入が困難である一方、欠陥を多く保持するランダム粒界では、転位が比較的容易に粒界に吸収されることを意味する。 以上の結果を踏まえ、室温クリープにおいては粒界が粒内の転位を吸収することで、定常状態を生み出しクリープを持続させていることが分かった。粒内変形と粒界変形の関係は、高温(>0.4T_m)では粒内の転位運動と粒界のすべりは個別に作用する並列関係を想定しているが、低温(<0.3T_m)では粒内の転位が粒界に吸収され、粒界転位となって粒界すべりを生じさせる直列関係があることが示された。これにより室温クリープの構成方程式が確定し、本研究は低温における新たなクリープ機構の存在を提案した。
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