今までに我々は、VCPが様々な神経変性疾患に共通して見られる異常蛋白質凝集体に局在し、凝集体形成能と、凝集体分解能という一見、相反する2つの機能を持つことを明らかにしてきました。そこで、この2つの機能を制御する機構を解明することで、様々な神経変性疾患に共通する凝集体の形成・分解機構をターゲットとする世界初の治療薬の開発につながると考え、以下の実験を行いました。 凝集体の形成・分解メカニズムを解明するために、ハエのジェネティックスクリーニングや培養細胞を用いたRNAi法を用いてVCPと共に凝集体形成・分解に関与する因子をいくつか同定しました。今まで、凝集体形成に関与すると思われていなかった小胞体膜上に存在する因子が関与する事を示しました。 さらに家族性筋ミオパチーの一つであるIBMPFDにおいて同定されたVCP変異体においてコファクターとの結合能等をさらに調べました。その結果、小胞体から細胞質へとミスフォールディングしか蛋白質を引き出すretrotraslocationに関与する因子との結合が亢進し、このretrotranslocationを阻害する因子との結合が低下する事を示唆する結果を得ました。この結果より、IBMPFDは「retrotraslocation亢進疾患」ではないかと考えています。 以上の研究成果をまとめ、現在論文を投稿準備中です。 今年度の研究成果により、いまだ解明されていないVCPの凝集体形成・分解の制御機構を解明する初めての研究が発展し、長年疑問に思われてきた神経変性疾患において見られる凝集体の形成・分解機構の解明に一歩近づく事が出来たと考えています。現時点ではいまだ対症療法的な治療法しか確立されていない神経変性疾患に対する新たな治療法が確立される事を目指して今後さらに研究を進めていきたいと考えています。
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