本研究の中心課題は、西暦11世紀のペルシア詩人であり、イスラーム・シーア派の一派イスマーイール派に傾倒した思想家として知られるナーセル・ホスロウ(1072年以降没)の思想の全体像を明らかにすると共に、イランの思想史に位置づけることである。採用二年目である本年度は、(1)前年度学会で発表した、ナーセル・ホスロウの解釈学教義を端的に著したテクスト『宗教の顔』に関する研究を進め、また、(2)前年度に引き続き、新たに公刊された研究書、本邦で入手が困難な一次・二次資料文献、写本情報の収集のためイランに渡航した。 (1)前年度はナーセル・ホスロウに先行するイスマーイール派思想家のテクストとの比較作業を行なった。特に、本研究で主に扱うテクスト、『宗教の顔Wajh-i Din』における記述には、基本的な教義的方向性に関する記述で先行する文献や、後のイスマーイール派の文献、また同時代の神秘主義文献にも程度の差こそあれ類似した表現が見られることが分かった。この点を間テクスト性の観点からどう扱うかについても考察を進めた。また、前年度の研究からの継続としては、『宗教の顔』に見られるザーヒル(外面)・バーティン(内面)の概念に二重の基準があるのではないかという考えを更に掘り下げ、この点に関して新たな知見を盛り込んだ論文を準備中である。 (2)イランにおける資料収集:今年度はイラン国民議会(マジュレス)図書館および国民マレク図書館にて、刊本に使用されていないナーセル・ホスロウ著作の写本調査を行なった。
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