研究概要 |
本研究はイオン液体(RTILs)中でのN,N-ジエチルアミノ-3-フラボノール(DEAHF)の励起状態分子内プロトン移動反応を時間分解蛍光法により測定し、RTILsの溶媒和過程とプロトン移動反応の関係を明らかにすることにより、RTILSの性異性の解明を目指すものである。DEAHFは通常の極性溶媒中では、光励起後サブピコ秒で断熱的な速いプロトン移動と溶媒和ダイナミクスが競合して起こるとともに、溶媒和過程に伴い反応にポテンシャルバリアが形成し、その後、活性化過程を伴う数十ピコ秒の遅いプロトン移動が起こることが分かっている。申請者はTi:Sapphireのフェルト秒レーザーとストリークカメラとを組み合わせ、20ピコ秒の時間分解能での時間分解蛍光スペクトルを得た。DEAHFのノーマル体の蛍光とトートマー体の蛍光を分離して解析することにより、数十ピコ秒領域での溶媒和ダイナミクスおよびプロトン移動速度を評価した。いずれのRTILsでも溶媒和時間より、早くプロトン移動が起こっていることから、この時間スケールよりも早いサブピコ秒での溶媒和ダイナミクスが反応障壁の生成に動的に寄与していることが明らかとなった。また、ホスホニウム系のRTILsではイミダゾリウム系RTILsと比べ、プロトン移動が速いという挙動を見出した。 さらに、サブピコ秒の時間分解能が得られる光カーゲート法の測定システムを立ち上げ、測定を行った。その結果、いずれのRTILsでも数ピコ秒での速いプロトン移動およびサブピコ秒での溶媒和ダイナミクスを見出した。この結果は、速い溶媒和とプロトン移動が競合していることを示しており、RTILsのサブピコ秒の溶媒和が反応性に特に重要であることが明らかになった。
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