研究概要 |
銅酸化物高温超伝導体が発見されてから20年以上が経過するが、その電子相図・超伝導発現機構は未だ明らかにされていない。また近年、とくに超伝導キャリアー(ホール)の少ない領域(低ドープ領域)において磁性に関連する興味深い物性が報告されている。これらが高温超伝導とどのように関係しているのかは、解決すべき重要な問題である。 銅酸化物高温超伝導体の中でも多層型と呼ばれる一連の物質は、超伝導の舞台であるCuO_2面を単位胞内に複数枚もつ。この積層構造のため平坦性の優れたCuO_2面が実現し、理想的な研究対象であると考えられる。本研究ではこの多層型物質の一つである頂点フッ素系Ba_2Ca_<n-1>Cu_nO_<2n>(F_yO_<1-y>)_2に注目した(n;CuO_2面の積層数)。この系では酸素イオン(O^<-2>)とフッ素イオン(F^<-1>)の価数の違いを利用しホール濃度(N_h)をコントロールすることができる。フッ素量y及びCuO_2面数nの異なる試料のNMR測定を行い、低ドープ領域の系統的な研究を行った。 Cu-およびF-NMR測定により明確なn依存性を示す結果が得られた。n=2の場合、N_h~0.14の基底状態は超伝導であるが、CuO_2面を増やしたn=3ではAFM秩序を示す。これはN_h~0.14がn=3の場合の反強磁性磁気臨界点(QCP)であること、またAFMとSCの共存相が存在することを示唆する。一方n=4、n=5の場合にはQCPはN_h~0.15,0.18であることを観測し、nの増加にともないQCPに対応するN_hが増加することがわかった。 本研究から得られた電子相図の明確なn依存性は、nの増加が積層方向の磁気的相互作用を強めAFM秩序をより安定化することを示す。これらは、CuO_2面間の磁気的結合の重要性を指摘するものであり、高温超伝導発現機構の理解につながる重要な結果と考えている。
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