過熱状態の氷が均一核生成から融解に至る全過程を、分子動力学シミュレーションにより詳細に解析した。融点より30Kほど上での氷の融解過程は次の4段階に大別できる。(1)完全な氷の中に、熱揺らぎにより自発的に欠陥対が生成消滅する段階。こりときに形成される欠陥は5+7欠陥と呼ばれる。(2)欠陥対が偶然に集まり、10分子程度の規模の構造の乱れを生む過程。この過程では、D-L欠陥対(Bjerrum欠陥)あるいはI-V欠陥対(Frenkel欠陥)といった、トポロジー的な欠陥が形成される場合がある。これらの欠陥対は、一旦形成されると、構造変化を加速し、かつ完全な結晶に戻るのを難しくすることから、融解過程における自己触媒の役割を果たす。(3)構造の乱れが徐々に蓄積し、数十分子かちなる融液滴が結晶の中に形成される。この時点ではトポロジー的な欠陥は重要ではなくなり、融解の様相は古典的核生成理論で類型化できる。(4)融液滴の大きさが、その温度における臨界核サイズを越えると、構造の崩壊が不可避的に進行する。 氷の融解の初期過程(1)(2)では、見掛け上の構造の乱れ(分子位置の格子点からのずれ)ではなく、トポロジー的な乱れ(完全な結晶構造に戻る経路の距離)が秩序変数となる。このようなメカニズムは、ネットワーク性物質の中でも水独特と考えられる。
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