研究概要 |
小胞輸送系を介した細胞の運命決定機構を解析するために,採用者は植物のSNARE複合体と維管束細胞及びミロシン細胞に着目して,研究を遂行した.1).SNARE複合体を介した細胞の運命決定機構の解析-採用者は,液胞型SNAREであるVAM3とVTI11の変異体を用いて維管束の未熟な発達の分子機構を解析した.解析により,液胞型SNARE複合体はオーキシン排出キャリアーであるPIN1の極性を持った細胞内局在を制御していることを明らかにした.PIN1の細胞内極性が失われることにより,オーキシンの組織分布が変化し,結果的に維管束前駆細胞の運命決定が正確に行われないことを明らかにした.本研究をまとめ,学会誌に発表した.採用者は,液胞型SNAREであるVAM3とVTI11の変異体において,維管束周辺に分布するミロシン細胞の数は多くなることを見出していた.ミロシン細胞を蛍光タンパク質で可視化する系を確立し,変異体では葉の発生初期においてミロシン細胞の運命決定が亢進していることを明らかにし、かつミロシン細胞は維管束前駆細胞とは独立に分化してくることも明らかにした.Rab5 GEFの変異体においても液胞型SNARE変異体と同様に,維管束の未熟な発達・ミロシン細胞の分化亢進が観察されることを明らかにした.小胞輸送系の中でも特定の経路に依存した,細胞の運命決定機構が明らかとなった.2).VAM3ホモログによる冗長的な維管束細胞とミロシン細胞の運命決定機構の解析-液胞型SNAREであるVAM3には,PEP12とSYP23の2つのホモログが存在する.細胞内で,VAM3は液胞膜に,PEP12は液胞前区画膜に存在することが明らかにされている.SYP23は膜貫通領域を持たないことから,細胞質に局在し,機能的なSNAREではないと考えられている.採用者は,細胞内で異なる局在性を示すVAM3,PEP12,SYP23が冗長的に,もしくは特異的に維管束細胞とミロシン細胞の運命決定に関与しているかを解析した.採用者は,VAM3,PEP12,SYP23の単独変異体,二重変異体,及び三重変異体をTDNA挿入変異体及び人工microRNAを用いて作製した.VAM3,PEP12の二重変異体は発生初期の致死性を示した。変異体における植物の成長(背丈)・ミロシン細胞の分化亢進・維管束の発達・12Sグロブリンの液胞への輸送を解析した.すべての形質において,VAM3,PEP12,SYP23は冗長的に働いていることを明らかにした.この結果から,機能不全のSNAREであると考えられていたSYP23に機能があることがわかったので,SYP23の細胞内局在とSNARE複合体形成能を解析した.GFP融合SYP23遺伝子を作製し,植物体に導入後,蛍光顕微鏡により,SYP23は細胞質に局在していることを明らかにし、GFP-SYP23発現植物体を用いた免疫沈降実験により,SYP23はVTI11・SYP5のSNAREタンパク質と結合することがわかった.以上の結果から,まったく異なる細胞内局在を示すSNAREタンパク質が,細胞の運命決定機構に関与することが明らかとなった.本研究成果を学会で発表した.
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