本年度は、ショウジョウバエが音・重力・風の情報を検知するための感覚神経と脳中枢を解析し、ショウジョウバエの「耳」にあたる触角の付け根にある数種類の感覚神経(ジョンストン器官神経)が、触角の小さな振動に強く反応する細胞と、一定の方向への持続的な変位(角度の変化)に強く反応する細胞とに分類できることを発見した。細胞特異的に神経毒素を発現させてそれぞれの細胞群の神経伝達を特異的に遮断した個体群の行動を解析したところ、前者を遮断すると音に対する応答行動が、後者を遮断すると重力に対する応答行動が、それぞれ特異的に失われた。さらに、音を検知する神経と重力を検知する神経は脳内の別々の中枢に分かれて投射しており、これらの中枢の神経回路は、人間の脳の聴覚や重力感覚の中枢の回路とそれぞれよく似た構造になっていることを発見した。また、ショウジョウバエは強い風が来ると身構えて飛ばされないようにする習性がある。強い風は重力と同じように、触角の傾きを変化させる。このような風検知も、重力と同じ脳中枢で処理されていることを見出した。ショウジョウバエと人間は進化の過程で6億年以上前に分かれた、別々の枝のそれぞれ先端に位置している。このように進化的に遠く離れたショウジョウバエと人間において音や重力の情報処理回路が似ていることは、特定の種類の情報を処理するために最適な方法を求めてそれぞれが独自に進化した結果、同じような構造に行き着いた収斂進化の可能性を示している。
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