研究概要 |
本研究では、Tam41の機能に関する新たな知見を得るために,酵母Tam41の温度感受性変異株を作成し、そのマルチコピーサプレッサーとなる因子,Art5を同定した。Art5はTam41の温度感受性変異株および欠失株の増殖欠損を相補し,TIM23複合体のアセンブリーおよび機能欠損を抑圧した。またArt5とTam41の二重欠損株は合成増殖阻害を示した。また,Art5の過剰発現はcrd1欠損株の増殖阻害を抑圧した。Art5はサイトゾルに局在するとの報告があるが,細胞分画実験から,一部は小胞体/ミトコンドリアを含む膜画分にも存在することが分かった。次にtam41欠損株でArt5を過剰発現し,脂質組成の変化を調べたところ,意外にも低下したCLレベルは回復していなかった。そのかわりに,カルジオリピン以外の脂質であるホスファチヂルイノシトールが減少し,酸性リン脂質CDP-ジアシルグリセロールが増加していた。 Art5は、近年同定されたART(Arrestin-Related Trafficking adaptor)タンパク質ファミリーの構成因子のひとつである。ARTタンパク質は,細胞膜上の各種トランスポーターとユビキチンリガーゼ(Rsp5)との結合を仲介するアダプターとして機能し、トランスポーターのエンドサイトーシスによる取り込みと液胞での分解に関与するというモデルが提案されている。実際Art5はイノシトールのトランスポーター(Itr1)に特異的なアダプター因子であり、過剰量のイノシトヤール存在下で、Itr1の分解を促進することが報告されている。したがって,Art5の過剰発現により、イノシトールトランスポーターが分解され、細胞内のイノシトールの量が低下し、ホスファチジルイノシトールの合成が抑制され、結果として、前駆物質であるCDP-ジアシルグリセロールが蓄積したことが考えられる。以上の結果は,CLだけではなく,その他の脂質の構成比率の変化も、ミトコンドリア内膜のタンパク質複合体の構造と機能の維持に重要であることを示唆している。
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