2009年度は、前年度末かち依頼を受けて編集部員として参加していた三省堂の出版企画『日本映画作品事典』(仮題、山根貞男/佐崎順昭編著、2010年刊行予定)のための調査が高く評価され、新たに署名入り原稿を多く執筆した。なかでも並木鏡太郎、佐々木康、渡辺邦男という、これまでの日本映画史の記述からは完全に漏れていた監督の作品解説を担当するなかで、一般にはアクセスすることが難しい彼らの膨大な作品群をほぼ網羅的に鑑賞し、またその同時代における批評言説の分析を通じて、日本映画におけるメロドラマ的想像力への知見を深めることができたのは幸運であった。とりわけ佐々木と渡辺はともに長谷川伸文学の映画化を複数回試みており、研究課題の遂行に益するところ大であった。 また2009年10月からは、本年度より非常勤講師(映画研究担当)を務める京都造形芸術大学映画学科において長谷川伸の代表的な股旅物の戯曲『瞼の母』公演(2010年4月17日/18日、同大学高原校舎にて上演の予定)に演出補佐として参加した。この公演の独自性は男役・女役を問わず出演者全員が同学科の俳優専攻の女子学生である点にあり、女剣劇という日本文化史上の興味深い水脈の魅力を教えるだけでなく、メロドラマ研究における鍵概念(文化的性、身体、演技、異性装など)を再考察するうえでの貴重な機会となった。 これらの成果を踏まえて、二本の研究論文を準備した。それは日本のメロドラマ映画史において独自の位置を占める映画作家・マキノ雅弘が長谷川伸の戯曲『刺青奇偶』を映画化した『いれずみ半太郎』(東映、1963年)のテクスト分析「運命《線》上に踊る男と女-マキノ雅弘『いれずみ半太郎』分析」(日本語版)および"Why Does Not Onaka Fall?: A Textual Analysis of Makino Masahiro's Odd and Even"(英語版)である。残念ながら年度内の発表はできなかったが、2010年前半までには両者とも査読制学術誌に投稿の予定である。
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