研究概要 |
本研究はアオサ属における海水域から汽水・淡水域への適応進化の分子機構を総合的に理解することを最終的な目標としている。実験は沖縄県で発見したアオサ属に含まれる唯一の淡水産種であるUlva limneticaを用いている。これまでの実験で本種は淡水・海水両条件で良好な生育を示すことが確認できている。 今年度は前年度に単離した淡水誘導性遺伝子群についてRT-PCRを用い、淡水環境での発現上昇の確認と淡水移行後の継時的な発現量の推移(1、4、24時間、3日、7日後)について解析を行った。cDNAサブトラクション法によって単離した217個の異なる淡水誘導性遺伝子のうち39個の遺伝子に関してRT-PCRを用いて淡水条件下で発現が上昇していることを確認した。またこれらの遺伝子についてその発現量の推移を解析した。その結果、39個の遺伝子群には発現上昇のパターンが異なる3つのグループが存在することが明らかになった。一つ目のグループは淡水移行直後の短い期間(1~12時間後)にのみ発現が上昇し、その後海水条件と同じ程度の発現量まで減少した。2つ目のグループでは淡水移行後に見られた発現の上昇が7日目まで維持された。また、3つ目のグループでは1つ目のグループと似た発現パターンを示したが、発現量のピークはより遅い3、7日目に見られた。2つ目のグループは急激なイオン・浸透圧の変化に対するストレス応答など、1,3つ目のグループは淡水環境に藻体を順応させ、維持していくために必要な遺伝子群がそれぞれ含まれているのではないかと考えている。ここまでの部分は論文としてまとめJournal of Phycologyに受理されている。また、これらの遺伝子のうちアスコルビン酸ペルオキシダーゼ、トリオースリン酸イソメラーゼ、リボソームタンパク質などは汽水産種スジアオノリ、海産種ウスバアオノリ、アナアオサでオーソログの単離を行い、現在、それぞれの低塩濃度条件での発現量の推移をrealtime-PCRによって調査している。
|