研究概要 |
本研究者の所属する研究室では、海産無脊椎動物ホヤ類を用いて受精の分子機構の解明を目指して研究を行っている。これまでに、マボヤの精子プロテアーゼProacrosinとSpermosinが受精に重要な役割を果たしていることや、精子ユビキチン-プロテアソーム系が、精子が卵黄膜を通過する際に働く溶解物質として機能していることを報告してきた。雌雄同体のホヤ類は、精子と卵を同時に放出するが、自家受精は起こらず他個体の配偶子同士が受精するという現象が知られており、このことから、精子と卵には自己と非自己を識別するアロ認識機構が存在すると考えられる。しかし、そのメカニズムは未だに多くの謎が残されている。例えば、アロ認識の結果、受精可能と判定された配偶子は、一体どのようにして精子ユビキチンープロテアソーム系を活性化し、精子の卵黄膜通過を可能にしているのだろうか。本研究者はこの謎を解くため、アロ認識機構と精子ユビキチンープロテアソーム系をつなぐ懸け橋として機能することが予想される精子プロテアーゼProacrosinとSpermosinに着目して研究を行ってきた。 ProacrosinとSpermosinの相互作用分子の探索を行ったところ、様々な相互作用分子が得られたが、その中にはこれまでに受精への関与が報告されているものの詳細な解析が進められていない分子もあり、本研究によって精子プロテアーゼとの関連性が初めて示され、今後の研究の発展に大きく貢献したと言える。また、カタユウレイボヤにおけるアロ認識候補分子と高い相同性を示す分子も、相互作用分子として得られた。この結果から、マボヤのアロ認識機構には、カタユウレイボヤと共通する分子も関与している可能性や、精子プロテアーゼが関わっていることが初めて示された。さらに、生化学的アプローチによって得られた相互作用分子vitellogeninにおいては、機能未知のC末端側領域が受精に関与していることが初めて示され、vitellogeninが受精に関与するという新しい概念を報告することができ(Akasaka et al, 2010)。
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