研究概要 |
本年度は前年度に引き続き、テーマである「多孔性配位高分子におけるプロトン伝導体の探索」をもとに、新たなプロトン伝導体の創製を目的に研究を遂行した。具体的には、M(OH)(bdc-R)系多孔性配位高分子(MIL-53(M)-R、M=Al,Fe、bdcはテレフタル酸)におけるアンモニアを媒介とした新規プロトン伝導体の創製である。これは配位高分子がその細孔内に存在する媒体分子を容易に置換することができる利点に着目して行った。本年度は前年度、アンモニアを媒介としたプロトン伝導性(3.3×10^<-6>S cm^<-1>)を発現することを確認していたMIL-53(Fe)一(COOH)_2に加えて、その他の配位高分子であるMIL-53(Al)、MIL-53(Al)-NH_2、MIL-53(Al)-OHのアンモニア雰囲気下でのプロトン伝導性の評価及び、プロトン伝導メカニズムの解明のためにアンモニアガス圧をより詳細に制御する装置系を考案し、各圧力における伝導性の評価を行った。上記3つの配位高分子は、~10^<-13>S cm^<-1>(アンモニア圧0 kPa)から10^<-8>~10^<-10>S cm^<-1>(100kPa)へと伝導度が上昇し、MIL-53(Fe)-(COOH)_2と同様にアンモニアを媒介としたプロトン伝導性を示すことが明らかとなった。さらに、0~100kPaの範囲においてガス圧を制御した際の伝導度を測定し、吸着量に対する伝導度の相関図を作成した。その図から細孔内がアンモニア分子でほぼ充填される際に急激な伝導度の上昇が起きていることがわかった。これは細孔内の水素結合ネットワークが形成されないとプロトン伝導性を発現しないことを示しており、機構としては水系におけるGrotthuss機構に近い機構であると推察される。以上述べたように、アンモニアを吸着する多孔性金属錯体を発見し、アンモニアを媒体としたプロトン伝導性を発現させることに世界で初めて成功した。この成果はプロトン伝導体の物質科学の新領域を切り拓く研究成果で、極めて学術的価値の高い成果である。
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