研究概要 |
最終年度は研究目的-B、具体的には、「道徳判断を下す」ということから「道徳的に行為する」ということへ行為者がどのように導かれるとヒュームが考えているのかについて、現代のメタ倫理学的知見を援用しながら考察を行なった。その結果、従来ヒュームに対しては「道徳判断を下す」ことの中に「道徳的に行為する」ことが含まれているとする「判断の内在主義」が帰されてきたが、ヒュームにはむしろ「判断の外在主義」を帰すことが適切であると結論づけた。つまり、道徳判断を下すことと道徳的に行為することとの間には偶然的・外在的な繋がりしかないと、ヒュームは考えていたものと思われる。 また研究目的-A・Bを遂行していく過程で、ヒュームが道徳について説明するとき,必ず「社交」や「会話」に言及していることに気がついた。そこで本研究は、道徳における「社交」と「会話」の重要性の探求を、今後の研究の端緒と位置づけ、この考察を研究目的-A・Bを進めるのと同時並行的に行なった。 その結果本研究は的これまでのヒューム道徳哲学研究ではほとんど注目されてこなかった「社交」や「会話」の重要性の一端を明らかにしただけでなく、「社交」「会話」が詳しく論じられているヒュームの自然的徳論(主に利他的性格特性が論じられている)についても、その重要性を浮かび上がらせることに成功した。この成果は、ヒュームの道徳心理学的考察や彼の正義論におけるコンヴェンション論のみに目が行きがちだった従来の研究の殻を打ち破り、ヒュームの哲学を、彼の経済学や政治学そして歴史学にさえ繋がりうる-層豊かなものとして提示するものである。さらに、利他的性格特性の及ぶ範囲は「社交」や「会話」を通じてその範囲を拡張するという彼の思想を用いれば、例えば地球環境問題、あるいは新興国における貧困救済問題を解決するための有効な提言を与えうることが期待されるのである。
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