本研究目的は、人は正確に"顔を読む"ことができるのか?という問題を基に、細かいレベルの人間の顔認識能力の正確さを検討することであった。顔パーツの表情認知に関する研究では、顔の情報をひとまとまりとして処理する過程で表情も処理されているという問題を基に、顔の部分表情の認知の際の顔の他領域の果たす役割について、眼と口に注目して比較検討した。表情間で顔を部分的に入れ替えた合成画像を用いて検討した結果、顔パーツの表情認知で顔の他領域が影響したため、表情認知においても顔の全体処理が起きることが示された。その影響度合いはパーツによって異なり、口と比較して眼の方が強く影響を受けることが示された。表情認知には男女間の脳の機能的な違いに由来する性差が存在するが、これまで顔認知過程と表情認知過程の相互作用の観点から性差を検討した例がないという問題に基づき、顔認知・表情認知過程間の相互作用における性差について検討した研究では、表情を表出した顔に対する相貌印象の評価に表情が及ぼす影響に性差が認められるかどうか観察した。その結果、女性は魅力を判断する際に刺激の表情に強く影響を受けたが、男性は女性ほど刺激の表情に影響を受けなかった。この性差は脳の顔処理過程の性差を反映した可能性が高い。化粧は美しさのような相貌印象以外の顔が発信する情報にも影響を及ぼしている可能性が高いという問題を基に、化粧が人物同定課題に及ぼす影響を検討した研究では、化粧パターンの変化で顔の再認課題成績がどう変化するか観察した。その結果、素顔からの変化の最も大きい濃い化粧での人物同定が最も難しく、他方、素顔よりも軽い化粧での同定が最も容易であることが認められた。また、顔とメイク顔の変化が大きい場合において、物理的に同じ変化量であるにも関わらず、メイク顔から素顔を同定する方が、素顔からメイク顔を同定するよりも困難であることが示された。
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