研究概要 |
本年度、我々は、癌細胞でのβ-cateninの恒常的活性化が、IL10の産生を通して樹状細胞を抑制し腫瘍免疫逃避に関与する可能性を示した。悪性黒色腫では、IL10の発現とβ-cateninの発現が細胞株、組織で有意に相関していた。大腸癌では、IL10を発現している2株で、いずれの細胞株でも強いβ-cateninの活性化が見られた。β-cateninのノックダウン、強制発現、レポーターアッセイよりβ-cateninはIL10のプロモーターに直接結合することでIL10を発現させていることが分かった。次に、Wnt/β-cateninが恒常的に活性化している悪性黒色腫、大腸癌細胞が、樹状細胞(DC)に対して与える影響を解析した。Wnt/β-cateninが恒常的に活性化している悪性黒色腫、大腸癌細胞の培養上清を含む培養液中で、DCを培養すると、IL10、ILT3,4を高発現し、Treg誘導能も高い抑制性DCに分化した。このような抑制性DCへの分化は、RNAiを用いて悪性黒色腫のβ-cateninを抑制することで回復した。また、培養上清中のIL10を中和することでも回復したことから、IL10が部分的に関与していることが分かった。さらに、活性型β-cateninを遺伝子導入により強制発現させIL10を産生するようになった悪性黒色腫をヌードマウスに移植し、in vivoでβ-cateninの活性化が樹状細胞にどのような影響を与えるか評価した所、DCのT細胞活性能を減弱させることが分かった。以上より、悪性黒色腫、大腸癌におけるWnt/β-cateninシグナルの活性化は、IL10などの免疫抑制性物質を介して、DCの機能を抑制し、癌の免疫逃避に関与する可能性が示された。よって、Wnt/β-cateninシグナルに対する分子標的治療薬は、悪性黒色腫や大腸癌細胞の免疫逃避の解除にも有効な治療となりうることが示唆された。
|