研究概要 |
本研究は核融合炉における固体増殖材候補である三元系リチウム酸化物(LiAlO_2, Li_2TiO_3, Li_2ZrO_3およびLi_4SiO_4)中の水素同位体捕捉・輸送挙動を明らかにすると共に、イオン照射による損傷機構を解明し、この構造変化と水素挙動の関係を明らかにすることを目的とする。本年度は、分光学的手法と高速イオン散乱分析を複合的に活用することにより、増殖材中にイオン入射した水素が欠陥形成に及ぼす影響を明らかにすることに焦点を当てた。 室温において10keV D_2^+および10keV He^+照射された単結晶LiAlO_2の紫外・可視光吸収測定により、5.25eVの酸素欠陥(F^+ center)に由来する吸収ピーク強度は、He照射と比べてD照射試料のほうが著しく高いことが分かった。また、RBSイオンチャネリング法を用い、これらDおよびHe照射されたLiAlO_2中のはじき出し原子濃度の深さプロファイルを調べた結果、D入射にともない形成される欠陥の深さプロファイルは、二体衝突モデルで予測されるプロファイルよりも十分に深い位置まで及ぶ。一方で、ヘリウム照射で形成されるはじき出し損傷プロファイルは計算で予測されるものとほぼ一致した。入射Dは核的衝突によるはじき出し損傷に加えて、イオン飛跡終端における水素捕捉により、例えば水素化物といった母結晶とは異なる化合物を形成することにより構造変化をもたらすものと考えられる。さらに、高温照射下(~653K)においては、D照射にともなうはじき出し原子数の増加量が、He照射に比べて著しく多いことを明らかにした。以上のように本年度は、入射水素と欠陥形成過程の関係に関する新しい知見を見出すとともに、これが高温照射下におけるダメージ蓄積挙動にも重要な役割を持つことを示すことができた。
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