研究概要 |
前年度の研究において、聴覚系は、持続時間が16msという非常に短い有声母音であっても、そこから話者の寸法情報を適切に抽出する可能性を見出した。また、僅かな声道長の差を比較判断する場合には32ms以上の持続時間が必要であることも示された。今年度は、これらの研究成果について学会発表を行い、博士論文を執筆した。 さらに、今年度は、有声母音だけでなく、ささやき声のような雑音駆動母音を対象とした寸法知覚における持続時間の影響について検討するため、以下の聴覚心理実験を行った。今年度の補助金は、主に実験参加者の謝金、学会参加の旅費に当てられた。 <話者寸法の弁別実験> 実験刺激は、高品質音声合成システムSTRAIGHT[1]を用いて声道長と基本周波数に関する音響パラメータを操作した合成母音を刺激として用いた。基本周波数の値は白色雑音に置き換えた。 実験参加者は、話者の声道長が僅かに異なる2つの母音刺激を聴き、話者の寸法が小さい母音刺激を選択した。 その結果、32ms以上の持続時間をもつ母音刺激においては、高い弁別能力を示した。また、それらの持続時間の間で寸法弁別能力に有意な違いは見られなかった。それに対し、16msの持続時間においては、寸法弁別が困難になり、弁別閾は有意に増加する傾向を示した。 以上の実験結果により、雑音駆動母音のような明瞭度が低い音であっても、有声音の場合と同様の寸法弁別能力があり、32msの音から話者の寸法情報を抽出できることが示唆された。また、16msと32msとの間で寸法弁別能力に有意な違いが見られたことから、聴覚系における話者の寸法情報の抽出精度は音の持続時間に依存する可能性が示唆された。 <参考文献> [1]Kawahara, H., Masuda-Kasuse, I., & Cheveigne, A.de(1999). Restructuring speech representations using pitch-adaptive time-frequency smoothing and instantaneous-frequency based f0 extraction : Possible role of repetitive structure in sounds. Speech Communication., 27, 187-204.
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