研究概要 |
ゲノムの安定性を維持し,細胞のがん化を抑制する意味でも,DNA複製は極めて正確に行われなければならなくこの時に起こる自然突然変異を抑制するメカニズムを解明する事は,進化や細胞のがん化の原因の研究にも非常に重要な事である。そこで,本研究では大腸菌の突然変異抑制因子の欠損株を作成し,大腸菌のDNA複製に起因する,自然突然変異のメカニズムを解明する事を目的としている。1つめとして,『大腸菌DNAポリメラーゼI(PolI)の各機能部位における突然変異解析』を行った。DNAポリメラーゼI(PolI)が持っている,3つの機能部位を個々に変異させ,遺伝的な解析を行ったところ,次の様な結果が得られた。(1)5'→3'エキソヌクレアーゼ欠損株は塩基が増加するような変異を抑制していた。(2)3'→5'エキソヌクレーゼ欠損株はトランスバージョン型変異を抑制していた。(3)5'→3'ポリメラーゼ活性欠損株は塩基が減少するような変異を抑制していた。(1)(2)(3)より,Poll単独の突然変異抑制に関する詳細な知見を得ることが出来た。2つめとして,『大腸菌PolIのミスマッチ修復機構』について研究を行った。以前の結果より,PolIは新たにミスマッチ修復系にも関わっていることを示した。そこで,本研究では,PolIのどの部位がミスマッチ修復系に関わっているかを調べ,以下のことが分かった。(1)ミスマッチ修復系遺伝子MutSとPolIエキソヌクレアーゼ活性多重欠損株はトランジション型変異が増えた。(2)MutSとPolIポリメラーゼ活性2重欠損株は塩基が減少する変異の増加を示した。(1)(2)の結果より,PolIのエキソヌクレアーゼ活性はミスマッチ修復系に関わっていることが示唆された。これらの結果は,ポリメラーゼという重要かつ基本的な酵素についての知見を増やし,高等生物への応用に繋がると期待される。
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