プラテンシマイシンはグラム陽性菌の脂肪酸合成を強力に阻害する新規抗生物質として、Streptmyces platensisの培養液から単離された。脂肪酸の生合成を阻害という細菌ではこれまでほとんど研究されてこなかった新しい作用機序を持つことから、メチシリン耐性菌やバンコマイシン耐性菌にも有効である。科学ジャーナリズムでも注目を集めた画期的な生物活性に加えて、その特異な縮環様式は有機合成化学的にも極めて挑戦的な構造である。筆者は、Diels-Alder反応を用いる簡明かつ誘導体合成にもフレキシブルな合成ルートを着想し、より効率的なの全合成法の確立を目的として本研究を開始した。 文献既知のエポキシラクトンに対して位置選択的にニトリル部位を導入した後、ジエノフィルに導いた。ジエノフィルと高反応性ジエンとのDiels-Alder反応によりエノンを単一異性体で得ることができた。エノン部位のカルボニルアセタールとして保護した後、MeMgClを用いたラクトン部位の開環、Red-Alによるシアノ基の変換、Martin sulfuraneによるジオールの脱水などを経て、環化前駆体へと導いた。環化前駆体に対してGrubbs触媒を用いた閉環メタセシス反応のより既知の炭素骨格である環化体を合成することができた。環化体を塩酸酸性条件で処理すると、アセタールとTBS基の除去、分子内エーテル環化が一挙に進行し、プラテンシマイシンの全合成に向けての最重要中間体である四環性骨格を有するコア部分が得られた。これまでの合成法と比較して、効率的に高立体・位置選択的なコア部分の合成に成功した。
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