研究概要 |
本年度は、2006年の日本経済を対象として、全貿易財産業を対象とした貿易障壁の発生要因を明らかにするため、Protection for Sale(以下、PFS)モデルの検証を行った。PFSモデルとは全産業において発生している貿易障壁を産業ごとの利益団体による政府への政治献金行動によって説明する枠組みである。このモデルの推定及び検証作業には産業別政治献金データ、産業別貿易障壁指標及び産業別輸入価格弾力性の情報が必須である。 本稿は第44回衆議院議員総選挙の翌年を分析期間とし、2005年度及び2006年度政治資金収支報告書を収集、各政党・資金団体および政治団体への企業献金・団体献金を整理した。その献金名簿から、「TSR企業情報ファイル」を用いて企業名を業種コード(JSIC.Rev.11.4桁分類)へ分類作業を行った。さらに、総務省政策統括官部局」のご厚意により。国際比較が可能な産業別データ系列も作成した。 産業別貿易障壁指標に関しては、非関税障壁の度合いを反映し、かつ、経済理論的な基礎を持つ「産業別TRI」を定義し、Kee,et.al(2009)の推定結果を用い、産業別TRIを推定した。産業別輸入価格弾力性はKee,et.al(2008)が推定した貿易品目(HS88の6桁分類)ごとの輸入価格弾力性を産業レベルに集計した。 全貿易産業(JIP産業分類)を対象にPFSモデルの検証を行った結果、PFSモデルが要求する符号条件を確認した。また、貿易障壁を発生させる政治構造パラメータである「政府の経済厚生ウェイト」と「貿易に関わる利益団体組織率」を計算した結果、米国等を対象とした既存研究と比較し、経済厚生ウェイトが大きく、利益団体組織率が小さいという結果を得た。以上のことから、2006年の日本政府の貿易政策決定において利益団体の与えた影響は国際比較という観点から比較的小さいと言える。
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