研究概要 |
地殻の代表的鉱物である石英のインデンテーション強度における水の影響を調べるために,Griggs型変形試験機を用いて圧力1.5GPa・温度900℃で,1)含水下で変形させた初期含水量の低い(ドライ)結晶,2)含水下でアニールさせたドライ結晶,3)無水下で変形させた初期含水量の高い(ウェット)結晶の3つの人工水晶単結晶を準備した.荷重100〜10000μNと変化させたインデンテーション試験から,試料1)の結晶は,2),3)の結晶に比べ低いインデンテーション硬さ,弾性率を示す.含水下でアニールされた2)の結晶中で,H_2Oの拡散係数から推定される含水領域である結晶表面約100μmの部分においてもその強度は,初期物質と同じ硬さを示す.また.2),3)の試料は,高温高圧処理および塑性変形により弾性率が初期物質より大幅に下がる.これは高温高圧処理の非静水圧吐および塑性変形によって生じた転位の影響であると考えられる.Heggie and Jones(1996)は,分子動力学計算から,水の存在が石英のパイエルス応力を下げ,転位の滑動を容易にすることを示した.試料1)で見られた含水下で塑性変形のした部分のインデンテーション硬さが,含水下でアニールした試料(2),および高温高圧下で変形した試料(3)に比べ低いことは,含水下で石英の強度(パイエルス応力)が下がることを示唆している.これは石英の強度における水の存在は,従来考えられていた転位クリープ領域だけでなく,さらに低温もしくは高応力領域である低温塑性変形領域(パイエルス機構)においても,重要であることを示している.地殻中で,従来考えられていたより浅部でも水の存在が石英の強度を下げることは,断層アスペリティなどの高応力下でも石英の強度が水の影響を大きくうけ,断層の強度をコントロールする可能性かおる.
|