研究概要 |
本研究は,アメリカ合衆国におけるリベラル・エデュケイションの歴史的展開を解明することを目的とし,グレイト・ブックス運動史を主たる考察対象として取り上げている。グレイト・ブックス運動とは,古典的名著の講読と討議を基幹に据えるグレイト・ブックス・プログラムの普及を試みる運動であり,コロンビア大学のジェネラル・オナーズ・コースを嚆矢とし,ピープルズ・インスティチュート,シカゴ大学,ヴァージニア大学,セント・ジョンズ・カレッジへ,また,1947年のグレイト・ブックス財団設立を契機として,全米各地の図書館,コミュニティ・センター等へと波及した運動である。 本年度は,コロンビア大学図書館やニューヨーク公共図書館所蔵の資料を紐解きながら,ジェネラル・オナーズ・コース創設を導いた英文学者ジョン・アースキンの思想解明に主眼をおいて研究を進めた。ジェネラル・オナーズ創設へと帰結するアースキンのオリジナルのアイデアは,作品そのものではなく,作者の生涯の詳細な描写や作者の心理分析へと傾倒する,当時の文学研究・教育への批判に端を発するものであり,彼のグレイト・ブックス観は,後続するグレイト・ブックス運動のキー・アクターたちのそれとは,大きく内容を異にするものであることを解き明かした。この研究成果については,「ジョン・アースキンのグレイト・ブックス論」と題する論文にまとめた。また,グレイト・ブックス運動の前史となる19世紀末から20世紀初頭にかけてのニューヨーク市における成人教育の動向を調査した。この調査の成果については,日本社会教育学会第55回研究大会で研究発表を行った。
|