研究課題
特別研究員奨励費
我々の脳は外界からの様々な感覚情報を、自らの意図や記憶・知識といった内的な要素と統合し、現在自らがおかれている状況「現実」を推測している。この「現実検討能力」に関与する脳神経ネットワークを段階的に解明していく為に、平成22年度は「現実検討能力」を構成する重要な要素のうちの一つ、「文脈的な状況認知」の神経学的基盤の解明を行った。近年提唱されているSimulation理論によると、我々が、ある状況下で繰り返し経験した「知覚」「運動」「精神状態」等のmulti-modalな状態のパターンは、脳内でevent simulatorと呼ばれる概念知識の形で記憶されている。一旦、ある状況のevent simulatorが形成されると、我々は必要に応じてこのevent simulatorを再賦活することで、この状況をシミュレーションすることが出来るようになり(event simulation)、このプロセスが、文脈的な状況認知・推測の基盤となっていると考えられている。本研究では、event simulationにおける以下の3つのプロセス、すなわち、1)知覚された状況の要素間の関連性からbottom-upにevent simulationが起きる場合2)意識的に行われるtop-downなevent simulationを介して状況理解をする場合3)現在の状況との因果関係にある別のevent simulatorを賦活することで、未来/過去の状況推測を行う場合。に関して、それぞれが独立の神経基盤を持つかどうかの検討を、機能的MRIによる脳機能イメージング手法で明らかにすることを目指した。結果として、bottom-upなevent simulationに特異的に関与する脳領域として、両側下頭頂小葉、左中側頭回、両側前腹側前頭前野、右背外側前頭前野、両側楔前部を明らかにした。同様に、top-downなevent simulationに特異的に関与する脳領域として、左後部帯状皮質、両側側頭極、内側前頭前野(前部帯状皮質を含む)、左側頭頭頂接合部、左海馬傍皮質が、因果関係によるevent simulation(状況推測)に特異的に関与する脳領域として、左側頭頭頂接合部を同定した。本研究の知見は、今後の文脈的な状況認知・推測と関わる多くの分野(例:社会認知等)の脳内メカニズムの理解に貢献するものと思われる。
すべて 2011 2010 2009 2008
すべて 雑誌論文 (7件) (うち査読あり 7件) 学会発表 (16件)
Medicine & Science in Sports & Exercise
巻: (未定 印刷中)
Neuroimage
巻: 52 ページ: 1514-1520
Neuroimage 50
ページ: 198-207
Journal of Cognitive Neuroscience (印刷中)
Journal of Neuroscience 30
ページ: 3297-3303
International Journal of Advanced Computer Engineering 2
ページ: 129-133