今年度の研究目的は、映画と文学の二つの領域に関わる<イマージュ>という概念のデュラスにおける射程を検討し、70年代後半から80年代にかけて、ジャンルを超えて広がる作品を分析することで、その創作活動の賭け金を明らかにすることであった。 そのためにまず、前年度に引き続き、同時代の思想的文脈としてドゥルーズ、ブランショ等の映画・映像と文学に関する著作を検討したうえで、これまで行ってきた60年代から70年代にかけての映画作品の分析を考慮に入れながら、執筆活動への比重を増した80年代以降の作品の分析を行った。 80年代以降の作品分析として、1984年に発表された『愛人』に関して、日本フランス語フランス文学会秋季大会において口頭発表を行った。本発表においては、70年代の映画制作との関連で<イマージュ>という概念に着目し、着想段階で存在していた家族写真から本作品の核となる文学的イマージュが生成する過程を、デュラスにおける「書くこと」の存在論的意義に照らして分析した。 また、今年度は作品外のコンテクストや資料を考慮に入れることで、生成過程を含めた、デュラスの作家活動全体を捉えることも目指した。今年度前半には、国立視聴覚コミュニケーション研究所(INA)において、1960年代から90年代にかけてデュラスが出演したテレビ番組(対談シリーズ番組、出版・上映作品に関するインタビュー等)や、『木立の中の日々』『アガタ』といった、資料が一般に発売されていない映像作品について調査を行った。
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