研究概要 |
地震などの自然災害による情動ストレスが、交感神経系の過緊張を介して心臓性突然死の発症率・死亡率を増すということが知られている。また、突然死の解剖例における病理組織学的検査から、心疾患を基盤としてストレスによって突然死が惹起されているという報告もある。法医実務上は、心疾患を基盤に事故・暴行・心理的ストレスなどの外因が突然死の誘因となることがあり、これらは交感神経活性化が寄与した心臓性突然死である可能性があり内因と外因の鑑別が重要であるが、有効な方法はない。 心筋コネクシン43(Cx43)は粗面小胞体で合成され、ゴルジ装置において6量体を成し中心に孔をもつconnexonが形成され、細胞膜へ移動後介在板に移動・集合して斑を形成する。この斑は隣接する細胞の斑と結合してgap junction(GJ)という細胞をつなぐチャネルとなる。隣接する細胞間では、GJを通じた無機イオンや低分子物質の授受により情報を伝達して、心拍動を同調させ、心筋の恒常性を保っている。しかし、心肥大や心筋梗塞、心不全などの病態ではCx43が脱リン酸化し、タンパク合成や分解、細胞膜への輸送の過程が修飾され、心筋細胞におけるGJ-Cx43タンパク量や分布発現が変化して、GJを介した情報伝達が阻害されることが明らかにされつつある。また、Cx43の半減期は1-2時間程度と速いため、かかる環境変化に対して極めて速やかに適応すべく制御されていると考えられる。平成21年度に実施した研究で、ラットに代表的な情動ストレス(不動化ストレス)を与えると、心筋Cx43が介在板に転移し、GJIC活性が亢進することを初めて見出し報告した(Unuma et al. Circ. J, in press)。また、GJ阻害剤存在下にラットに情動ストレスを負荷した個体群のうち、一部にQT延長、心室性期外収縮発現頻度の著しい増加を認め、これらの個体に心室頻拍、心室細動が誘導されることから、身体拘束によるCx43のGJ転移に不整脈抑制作用がある可能性を見出した。今後この引き続きこのメカニズムについて詳細に検討したい。
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