テラヘルツ帯量子カスケードレーザー(THz-QCL)の製作プロセスを改良し、特にドライエッチングを導入することによって、より小さな導波路を形成することができるようになった。導波路の幅を70μmから40μmにすることにより、発熱量をおさえることができ、連続発振での動作に成功した。フーリエ変換分光計による測定で、発信周波数は活性層の設計通りの3.1THzであることも確認した。また、バイアスや温度といった動作条件を変更することで、発振モードが変化すること、および同一のモードでの発振であっても周波数がわずかにシフトすることを確認した。この周波数可変性は、位相同期による周波数安定化制御を行う際に重要となる。今回の測定から、温度を固定して動作させた場合にバイアス電流を制御することで、十分に対応可能であることがわかった。ヘテロダイン受信機における局部発振器として重要な、周波数安定化について、実現の見通しをつけることができた。 このTHz-QCLを局部発振器として適用し、独自に開発した準光学型超伝導HEBミクサを用いた3THz帯ヘテロダイン受信機を構築した。HEBミクサは、Si基板上に成膜したNbTiN薄膜を用いて製作しており、テラヘルツ波との結合にはツインスロットアンテナを用いている。位相敏感検波を利用したY-factor法で雑音温度の測定を行ったところ、最高で0.15dBのY-factorを得た。これは受信機雑音温度5600K(DSB)に相当し、さらにビームスプリッター等の光学系による損失を考慮すると受信機雑音温度は2100Kであった。これはTHz帯のHEBミクサ受信機としてほぼ世界的な水準を達成している。また、THz帯HEBミクサには一般にNbN薄膜が用いられているが、取扱いの容易なNbTiN薄膜を用いても、ほぼ同等な性能を得られることが示された。
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