研究課題
特別研究員奨励費
20年度までの研究において希土類123系酸化物超伝導体の単結晶や溶融凝固バルク体において、希薄な不純物ドープが臨界電流研性改善に有効なピンニングセンターとして機能することを、系統的な研究を通じて明らかにしてきたが、そのピンニング機構については未解明であった。また、幅広い温度での利用が見込まれる本材料においては、臨界電流密度(Jc)の温度依存性の支配因子を明らかにする必要があった。本年度の研究では臨界電流研性の温度依存性の評価およびそれを説明するための理論的な解析を通じて、希薄不純物ドープによるピンニングが超伝導コヒーレンス長よりも小さなサイズのものであることを明らかにした。一方、従来ピンニング特性改善に有効とされてきた希土類元素のBaサイトへの置換については、ピンニングサイズが大きいことに由来し低温での臨界電流研性は希薄に不純物ドープした場合より大きく劣ることも理論的に証明し、金属組成の揺らぎの無い物質の選択が有利であることを明らかにした。以上の成果より、希土類123系超伝導体における臨界電流特性支配因子がほぼ解明され、今後の材料設計に汎用かつ有効な知見を与えた。すなわち、高捕捉磁場研性を示すRE183溶融凝固バルク体を設計するためには、現在主流となりつつある固溶の起こりやすい中軽希土類123ではなく、固溶の起こりにくい重希土類123へ開発の指針を再転換することが必要であり、広い温度範囲で強いピニングカを示すピニングセンターを局所化学組成の制御によって設計することが、RE123の有す高いポテンシャルを最大限に引き出すための鍵であることが明らかになった。これらの不純物イオンは原理的にc軸方向へ流れるJcに対しても改善可能であるため、現在柱状欠陥の導入に主眼が置かれているRE123薄膜導体においても不純物ドープへ開発の指針をシフトしていくことが重要と考えられる。また本研究により得られた知見は、低温応用に大きなシェアのあるBi2212丸線導体に対しても、点欠陥の示す強いJcの温度依存性を利用することによって飛躍的な超伝導研性や通電特性の向上が可能であることを意味している。本研究で得られた全ての知見は、RE123のみならず、コヒーレンス長の本質的に短い銅酸化物全般や最近発見された鉄系超伝導体などにも共通するものであると思われ、これら異方的な超伝導体の磁束ピニング機構の発展や材料設計への有用な知見として今後活用されていくことを期待している。
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Journal of Physics ; Conference Series (印刷中(掲載確定))
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