研究概要 |
私は昨年度から引き続き,自作の大気圧コロナ放電デバイスと質量分析計を組み合わせ,一世紀もの間不明であった「負イオンの生成機構と発展挙動」の解明に取り組んできた.自然放電現象の1つ"セントエルモの火"として知られるコロナ放電は,現代の産業応用や微量化学分析の研究分野における基盤デバイスとなっている.しかし,コロナ放電の基礎過程および放電内での負イオンの生成機構は非常に複雑とされ,過去にそれらの詳細は明らかにされていなかった. 今年度は,コロナ放電内の負イオン生成を支配する因子の特定を目的とし,研究を行った.具体的には,非対称のニードル-平板電極配置を使用し,平板電極に到達する負イオンの空間分布の計測,平板表面に形成した放電痕跡を利用した電界の視覚化,放電痕跡の表面分析,電極間に発生する電界分布の理論計算を行った.昨年度の対称電極配置で得られた実験・理論結果をふまえ,1)負コロナ放電内の負イオンの生成と発展は,ニードル先端から放出される電子の運動エネルギーに支配される,2)放電内で起こるイオン発展は電気力線に沿って進行する,3)1),2)の結果は任意の電極配置で成り立つことを証明した.負コロナ放電の物理的性質(電子の運動エネルギー)と化学的性質(イオン分子反応)の関係に着眼し関連性を見出したのは,本研究が初めてであった.さらに,電子の運動エネルギーを0~120eVの間で自在に変化させることのできる実験系を構築し,水酸化物イオンHO^-,窒素酸化物系イオンNO_x^-,炭酸系イオンCO_x^-をはじめとした様々な大気成分由来の負イオンY^-の生成に対して,各々の最適放電条件を見出すことに成功した.これにより,これまでほとんど報告例のなかった様々な負の大気イオン水クラスターY^-(H_2O)_n(Y=O_2^-,HCN^-,HO_x^-,NO_x^-,CO_x^-)のマススペクトルを取得し,各種負イオンの第一水和殻およびマジック数に関する新たな知見を得ることができた.
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