当特別研究員の研究課題は、シェイクスピアを中心としたイギリス・ルネサンスの悲劇における女性表象である。2009年度は前年度に引き続き、このテーマに関する考察を深めるべく研究を進めた。 本年度は昨年度に引き続き修士論文の一部を発展させ、シェイクスピアの恋愛悲劇『アントニーとクレオパトラ』におけるクレオパトラ像のあり方をそれ以前のクレオパトラを扱った悲劇群と比較し、シェイクスピアの作品は古代からルネサンスまでの「クレオパトラ文学」とも言えるような伝統の中にどのように位置づけることができるかを分析した論文「イギリス・ルネサンスにおける『クレオパトラ文学』--シェイクスピアのクレオパトラとその姉妹たち」を執筆し、『超域文化科学紀要』に投稿した。投稿後、その内容を5月31日の日本英文学会にて発表した。 また、シェイクスピア劇がアメリカ映画においていかに受容されているかについての予備的な研究を開始し、5月23日の大澤コロキアムにて"Shakespeare in High School : The Taming of the Shrew and 10 Things I Hate About You"というタイトルで発表を行った。 この他、シェイクスピアにおける共感覚(synesthesia)的な比喩に関する予備的な研究を開始し、7月5日に京都造形大学で行われた表象文化論学会第4回大会にて「共感覚の地平-共感覚は『共有』できるか?」という研究パネルを組織し、「感覚のマイノリティ-共感覚と共感覚者をめぐるフィクション」と題して文学における共感覚の一般的表現に関する発表を行った。
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