研究概要 |
近赤外蛍光色素はin vivoイメージングにおいて非常に有用なツールとなる。650nmから900nmの近赤外光領域は、生体組織の構成物質による光の吸収が少なく、高い組織透過性を有するため、励起光や蛍光シグナルの減衰を抑えることが可能である。これにより感度の高いイメージングを実現できるので、in vivoイメージングを行う上で望ましい領域と言える。ローダミンはその高い蛍光量子収率、光褪色耐性等の優れた蛍光特性から、蛍光標識色素や蛍光プローブの母核などとして生命科学分野で広く使われている蛍光色素である。それゆえ、このローダミンは様々に構造展開されているが、そのほぼすべてにおいてキサンテン環10位の酸素原子は保存されている。14族metallole化合物に対して、Si,Ge,Snなどの高周期14族原子をπ共役鎖に隣接する部位に導入すると、σ*-π*相互作用を起こすことにより、LUMOを安定化し、吸収・蛍光波長が長波長化することが報告されているが、これはローダミンに対しても当てはまるものであり、我々はキサンテン環10位に高周期14族原子を導入することで、赤色~近赤外領域に該当する650nm付近に吸収・蛍光を有するローダミンを合成した。これらのローダミンの蛍光特性を精査したところ、いずれも水溶液中において汎用されている同波長領域に蛍光を持つシアニン系色素よりも蛍光量子収率が高く、強い光褪色耐性を有することが明らかとなった。In vivoイメージングを行うにはより長波長の吸収・蛍光を有する色素が望ましいため、更なる構造展開を行った結果、700nm付近に吸収・蛍光を持つローダミン(SiR-NIR)の開発にも成功した。これを用いて一部の腫瘍に高発現することが知られている細胞外マトリックスであるテネイシンCを標的としたがんイメージングを行った。SiR-NIRを抗テネイシンC抗体に標識し、これをヒト悪性髄膜がん(HKBMM)細胞を皮下に移植したがんモデルマウスに静脈投与したところ、24時間後にがん部位からのみSiR-NIR由来の蛍光を観察することができた。以上のようにSiR-NIRは、in vivoイメージング用途に極めて有用かつ実用性の高い蛍光色素であることが明らかとなり、目的の一つであるがん診断薬の創製の足掛かりを築いた。
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