本研究は、近代国家が原住民(先住民)社会・地域をその周縁として組み込んでいく過程について、その戦後台湾における展開に関して、統治者側の政策とフィールド内の人々の経験の両面から明らかにすることを目的としている。昨年度は現地調査の実施に活動の主眼をおいていたが、今年度は主に史資料・データの整理と、成果の発表を行った。まず、戦後初期の対原住民行政制度の確立過程に関して整理したのが「戦後原住民行政制度確立過程之検討」である。この論文では、国民党政権が台湾を接収するに当たって、原住民居住地域の行政制度や対原住民の政治施策に関する基本方針をいかに確立していったかについて、台湾調査委員会や孫文の思想・憲法に関する議論などを通じて明らかにした。次に、戦後の(原住民居住地域に対する)「山地」行政の経済施策の前提となる日本統治時代の「理蕃」統治の経済施策とその影響について論じたのが「白く塗りつぶす-コメに見る『理蕃』統治の経済施策とその影響」である。これによって、日本統治時代にすでに原住民居住地域に対する資本主義経済体系下への組み込みは開始されていたが、日本統治時代までの状況に限ればその影響は文化的なものに止まったことが明らかになった。戦後においては、国民党政権によってさらに資本主義経済体系下への組み込みが進められていく。こうした戦後における「山地」行政のあり方については、まもなく完成予定の博士論文の後半部に盛り込まれる予定である。
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