研究概要 |
日本列島の地殻の変形は現在も進行中であり,今やGPS観測を通じて直接捉えることができる。GPSデータから水平歪み速度場を推定する最も正統的な手法は,逆解析により変形勾配テンソル成分を求めるShen et al.(1996)の方法である。しかし,GPS観測は地表面に沿って2次元的に行われるため,変位ベクトルの鉛直勾配3成分を得ることができず,従来の幾何学的歪み解析では,水平歪み3成分しか求めることができなかった。また,観測された歪みを弾性部分と非弾性部分に分離する問題も,地殻の変形メカニズムを理解する上で本質的に重要であるにも拘わらず,未解決のままであった。そこで,これらの問題を一挙に解決するため,地殻変形の原因をモーメントテンソルで表現し,物理モデルを介した歪み解析によりGPSデータから3次元弾性/非弾性速度場を推定する理論を構築した。さらにこの物理的歪み解析の考え方に基づいて全く新しい逆解析手法を定式化した。 この逆解析手法の有効性を確かめるために,先ず,模擬データを用いたテスト解析を行った。その結果,モーメント密度テンソルの等方成分と偏差成分への分解は充分に可能であることが分かった。また,空間分解能に関しては,GEONETの平均20km間隔の観測点配置でも,3次元的なモーメント密度テンソル分布の全体的特徴は捉えられることが分かった。次に,この解析手法をGPS水平速度データ(1996-2000)に適用し,新潟-神戸変形集中帯の3次元弾性歪み速度場及び非弾性歪み速度場の分離推定に初めて成功した。解析結果から,領域中央部の地表近くで顕著な弾性体積収縮が進行しているのに対し,より深部の上部地殻では非弾性剪断変形が進行していることが明らかになった。弾性歪みと非弾性歪みを足した全歪みの地表でのパターンは,同じGPSデータをShen et al.(1996)の方法で解析したSagiya et al.(2000)の結果と調和的になった。 以上の内容はGeophysical Journal Internationalへ2009年度中に投稿予定である。
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