ガラス転移は液体を融点以下に急冷したときに、その構造がアモルファス上に凍結する現象である。私の研究の目標は、ガラス転移における系の熱力学、動力学の役割を解明し、ガラス転移の基本的描像を得ることである。本年度は、(1)ガラスの熱力学的理論であるレプリカ理論と動力学的理論であるモード結合理論を詳細に比較する研究と、(2)斬新な相互作用系におけるガラス転移の研究を展開した。(1)平均場スピングラス模型とのアナロジーからは、この両者はガラス転移の動力学と熱力学における平均場理論に相当しており、整合した描像/結果を与えると期待される。しかし現状では、その整合性を認めることは容易ではない。私はほぼ厳密な計算が遂行できる無限次元系に注目し、両者の計算を実行し結果を詳細に比較した。その結果、平均場スピングラス模型の場合とは異なり、両理論が環状では整合していないこと、そしてこの不一致の原因がモード結合理論にあることを明らかにした。(2)従来のガラス転移の研究では、対象とするモデル系は剛体球系等に限られて来た。私は斬新なモデルを導入し、新しい観点からガラス転移を考察することが有効だと考えた。そこで、1つの粒子が大多数の粒子と相互作用する極端なモデルとして、柔らかい粒子系を超高密度にしたモデルに注目した。この系のシミュレーションを行ったところ、高密度で動力学が極めて平均場的になることを見出した。従来、ガラス転移において、平均場的挙動が実際に見られるモデル系は、存在しないと考えられてきた。しかし本研究では、実際にそのような液体モデルが実在することを、世界で初めて示した。以上(1)と(2)の成果は、共にガラス転移の理解に対する大きな一歩であり、論文はPhys.Rev.Lett.誌に掲載された。また、(2)については同誌のEditor's suggestionに選ばれた。
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