研究概要 |
前年度までに、様々な置換様式を持つメチルセルロース単糖誘導体モデル化合物の合成、およびこれらを用いた加水分解試験によりグリコシド結合の加水分解におよぼす置換位置による影響(置換基効果)についての定性的な知見を得てきた。本年度は、加水分解反応に対する置換位置の影響について定量的な検討を加え、最終的にセルロース誘導体の分子鎖内置換基分布を評価できるシステムを構築した。 昨年度までに見出した、重化溶媒中で加水分解反応を進行させて核磁気共鳴スペクトル法(NMR)により加水分解を観察する方法を駆使し、1,4-ジメチル-β-D-グルコシドのメチル誘導体の全置換様式を網羅した8種類の化合物について、触媒量および反応温度を変化させて加水分解実験を繰り返し行った。その結果、2位あるいは6位のメトキシ基は加水分解反応を抑制する効果が観察され、この効果は温度によって影響されないことを確認した。一方、3位メトキシ基はいずれの温度においても加水分解を促進する効果が認められた。これらの置換基効果については、一定の法則が成立することを見出したと考えている。現在、実験データを慎重に解析し直しており、これらについて投稿準備を進めている。 これらの結果より、グリコシド結合の酸加水分解反応速度は置換基の置換様式によって異なること、また、置換位置によって特有の効果を示し、これらは一定の法則に従うことを発見できた。この法則を演繹的に利用することで、グリコシド結合の加水分解速度を正確に測定すれば、置換様式を評価することが可能となった。本研究によって、これまで解析が困難であったセルロース誘導体の分子鎖内置換様式について、簡便な評価法を提案することができた。
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