本研究では、新たにインビボイメージングシステムを構築し、今までin vitroで具現化することが困難であった癌と微小環境の相互関係を明らかにすることを目標に、本年度はトレーシング可能な癌細胞、TGF-βシグナルを可視化できる癌細胞及び細胞周期を可視化できる癌細胞を樹立し、生体内での癌細胞の動態、シグナル伝達と細胞周期をin vivoで経時的な可視化を検討した。 (1)Smad結合エレメントをプロモーターに持つレポーター遺伝子又はコントロール遺伝子が挿入されたレンチウイルスをそれぞれ作製した。ヒト乳癌癌細胞株MDA-MB-231の亜株MDA-D細胞に、作製したウイルスを癌細胞に感染させ、安定発現細胞株を得た。MDA-D細胞をヌードマウスに心注する骨転移モデルにおいて、in vivoで骨に転移した癌細胞でTGF-βシグナルが骨転移初期に増強している結果が示唆された。そこでこの骨転移モデルを利用して、TGF-βシグナルを制御するユビキチンリガーゼSmurf2が乳癌骨転移における働きについて検討を行ったところ、Smurf2は乳癌の骨転移に対して抑制的に作用し、それはTGF-βシグナルを抑制する作用に加えて同じファミリー分子であるSmurf1をユビキチン化、分解することで細胞運動を負に制御していることがわかった。 (2)浸潤や転移の過程において、細胞周期の進行がどのような時空間パターンで展開するかを調べるために、細胞周期をリアルタイムに可視化できる蛍光プローブFucciを導入できるレンチウイルスをMDA-D細胞やヒト線維肉腫細胞株HT1080細胞に感染させ、安定発現細胞株を得、in vitroで細胞周期の可視化を観察し、リアルタイムでモニターすることに成功した。さらに、MDA-D細胞を用いた骨転移モデルにおいて、骨に転移した癌細胞の細胞周期をin vivoにおいても観察できた。
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