研究概要 |
多発性硬化症の疾患モデルである実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)を作製して、視神経炎の治療研究を行った。Apoptosis signal-regulating kinase1 (ASK1)およびOlig1という2つの遺伝子がEAEの発症やミエリン再生に与える影響を明らかにするため、それぞれの遺伝子欠損(KO)マウスを用いた実験を行った。ASK1は網膜神経節細胞にアポトーシスを誘導することを報告済みであるが(Harada et al. Am J Pathol, 2006)、最近ではToll様受容体の下流で自然免疫に関与することが注目されている。Olig1はオリゴデンドロサイトの発生に必須のbHLH (basic helix-loop-helix)型の転写因子であることが知られている。両KOマウスに対してEAEを惹起したところ、いずれのマウスとも野生型マウスよりも症状が軽く、特にOlig1 KOマウスでは発症率そのものの低下や、病期の進行に遅延がみられることがわかった。また新たに合成したASK1阻害剤をEAEマウスに投与したところ、視神経炎の症状緩和に有効であることが確認された(EMBO Molecular Medicine, 2010)。 一方、網膜Mullerグリア細胞および網膜神経節細胞から特異的に神経栄養因子受容体TrkBが欠損する2種類の領域特異的ノックアウトマウスの作製を完了した。そしてMuller細胞に発現する神経栄養因子受容体が神経細胞への分化や周囲の神経細胞保護に重要な役割を持つことを、初めて直接的に証明することに成功した(Harada et al. Nature Communications, 2011)。今後はこれらのマウスにおいてもEAEを作製するほか、前出のASK1阻害剤による治療研究などをさらに進めていく予定である。
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